誰がジャパネットで買う?

★先日、富士通主催・ジャパネットたかた社長のセミナー録を読んだ。まさに「試してガッテン!」が沢山あった。会員しか読めず、登録が面倒くさい。が、面白く役に立つので、以下へ全文を紹介。

◆伝えることがビジネス

私が商品を紹介するときに大切に考えているのは、その商品の魅力を真摯に「伝えたい」という気持ちと姿勢です。伝えたつもりが伝わっていなかった、という例は世の中にたくさんあります。「政治家と国民」「先生と生徒」といった関係をはじめ、挙げていけばきりがありません。伝えるということは、こちらのメッセージを相手が理解し、納得することです。通信販売に限らずどんなビジネスでも、相手が「伝わった」と感じなければ、話は進みませんしモノを売ることはできません。

信販売という私たちのビジネスは、テレビ、ラジオ、パソコン、チラシなどの向こうにお子様から年配の方まで幅広い世代のお客様がいます。たとえばデジタルカメラの紹介をするとき、説明書には難しい言葉がありますが、すべてのお客様に伝えるために、自分の言葉で噛み砕いて誰もが分かるようにやさしく伝えることが必要です。その理解が共感となり、商品を使う楽しさの共有となり、商品購入につながっていきます。

◆言葉の力がお客を動かす

私は常に台本をもちません。あらかじめ商品を理解し、伝えたいポイントは大体決めますが、あとはカメラの前に立って直感に任せます。台本の存在は自分の気持ちをすでに決められていることになるので、それではむしろ話すことができなくなります。伝えたいことがあれば、順番通り言わなくても、最後から、あるいは途中から入っても、最終的に伝えきればいいと思います。

ジャパネットには私のほかにテレビ、ラジオ、インターネットの各媒体に16人のMCがいますが、皆、台本をもちません。私もアドバイスはしますが、新人に対しても手取り足取り指導したことはありません。それでいいのです。立て板に水のように流暢に話せなくても、朴訥でも、計算のない自分の言葉で話すほうが、人の心に届くと私は思っています。

技術的に話し方が上手な人が、商品を売るためにいくら上手く話しても決して売れないでしょう。そこに「人間」がいなくては伝わるものがありません。相手は人間ですから、一方通行ではなく双方向にコミュニケーションしようとする姿勢が必要です。それはどんな世界でも同じだと思います。コミュニケーションするうえで人間に与えられた言葉を、どう活かすか、どう表現するか考えることは、すべてのビジネスにおいて大切なことだと思います。

◆感動を伝える

商品の良さを伝える上で、そこに真実がないといけません。だから紹介する商品は、自分が本当に良いと思ったものでないと見ている方の心に響きません。私は、モノ売りがモノ売りで終わったら、それほどつまらないものはないと思っています。たとえば「カメラを10万台売りました」というだけなら、できる会社はほかにもあります。私たちは単にモノを売っているのではなく、商品の先にある「暮らしの豊かさ」「暮らしの楽しさ」を提案しているのです。

数年前に社員全員の意見を集めて企業理念をつくりました。その一番目に『商品の先にある「生活」や「感動」を届けること』を掲げています。この商品を使うとこんなに生活が豊かになる、あるいは楽しくなる、といった「感動」を伝えたい。話し方のスキル、商品力も確かに大切です。でも同じ商品なのになぜ私たちから買っていただけるかを考えたとき、商品を通して得られる暮らしの感動を伝えたいという想いやメッセージがあるからだと私は思っています。それがジャパネットの「しゃべり」の基本であり、差別化のポイントでもあります。

恋愛術に長けているわけではありませんが、ショッピングもビジネスも、その基本は恋愛と同じではないでしょうか。ショッピングも恋愛も、想いを伝えるためにチャレンジし続けるからです。私は長年ローヤルゼリーを愛飲し、その素晴らしさを身をもって実感しています。まだラジオしかやっていなかった頃の話ですが、当時ローヤルゼリーはある地域では、5分間のラジオショッピングで200個売れていました。そこに大阪で紹介できる機会があり、私はどうしても1000個売りたかった。ローヤルゼリーを多くの人に知って欲しかった。そういう想いを持って紹介したところ、なんと1000個達成しました。そこで、次に考えたのは大阪には何百万という人がいるのだから、1000個で喜んでいる場合ではない、次はもっと多くのリスナーの心に届くように紹介しようということです。この良さを伝えようと思って、必死で紹介したら1500個近く売れました。信じることを本気で伝えれば、きっと伝わるものです。これは、どのような業界でも通じることではないでしょうか。

◆わかりやすさが買いやすさ

販売する商品の選び方は、私たちにとって生命線です。そこには使いやすいこと、品質が高いこと、利益だけを追求しないことなどいくつかポイントかあります。そしてその商品を理解し、限られた時間で最大限魅力を伝えることが必要です。家電や電子機器の機能は、難しい言葉で説明されていることがあります。その難しい言葉をそのまま使っては、お客様には伝わりません。私はできるだけ、やさしい言葉に置き換えて、誰が見ても聞いても分かるように説明します。

年配の方に「このパソコンのハードディスクは250MBなのでとても便利ですよ」と説明しても、分かるでしょうか。そういうとき「たとえば書類を整理するときに引き出しが10個と20個では20個の方が便利ですよね」といった切り口から入ると分かりやすいと思います。

また「メモリーが2ギガです、1ギガです」と言われてもピンと来ない方は大勢います。そういうときは「書類を整理するときに机はできるだけ広い方が便利ですよね、このメモリーの大きさは机の広さと同じことです」と説明すれば、なるほどと思っていただけるのではないでしょうか。

どのようなビジネスでも、提供するサービスや商品の特長や機能を、届ける当人がよく理解して、お客様にメリットを分かりやすく説明することが肝要だと思います。

◆使ってみたいと思ってもらう。

私は商品は生き物だと思っています。家庭のなかで商品がどのように生きていくのか、その例を紹介することでもお客様にとってイメージが具体的になります。たとえばカラオケでこんな話があります。ある東北の家に嫁いだ若いお嫁さんがいて、当初は姑さんと会話が弾まなかったそうです。その姑さんはとてもカラオケが好きで、それならとご家庭でカラオケ機器を購入されたところ、二人で一緒に歌うようになり、お嫁さんと姑さんの仲がすごく良くなって、今はとても円満だそうです。そういう嬉しい感動を私はどんどん伝えたくなります。

また最近の電子辞書は音声が出ます。それをそのまま「音声が出ます」と紹介してもダメです。色々な使い方がありますが、たとえば私なら、英語を調べるためのシチュエーションを画面に表示させます。Headと打てば顔のイラストが現れます。額やこめかみ、耳たぶなどを次々指し示すと、英語の音声で教えてくれます。これはビジネスだけでなくても家庭で使えます。私は実演しながら「お母さん、こうしてお子様と一緒に楽しく遊びながら勉強できますよ、やってみませんか」と紹介します。

使うシーンをイメージできる、使うメリットを実感できる、それが視聴者と商品の距離をグッと縮めることになります。

◆1000個売ったら2000個の努力

ジャパネットの2008年度の売上高は1370億円でした。そのうち、チラシやカタログなど紙媒体の比率は44%を占めています。テレビ、ラジオやインターネットだけではなく、印刷物も大切な媒体です。紙媒体の場合は、視聴者に直接話しかけることはできません。それでもチラシを見て、商品を買いたいと思ってくださるお客様がたくさんいらっしゃいます。なぜでしょうか。

テレビ、ラジオやインターネットと紙媒体は違う、と思われるかもしれませんが本質は同じです。テレビの90秒、5分といった放送時間を紙面に置き換えたら、それは広さです。限られたスペースで、どれだけ想いを伝えるか、表現するか、そこが勝負ですから、テレビやラジオと同じなのです。

同じ商品を扱っても、チラシの完成度が高いかどうかで反応は全く違います。これは経験上言うことですが、チラシの完成度を常に150%、200%目指す必要があります。数字は達成した時点で過去のものであり、1000個売れているから満足するのではなく、2000個売るための努力をすべきです。私たちも7、8年前にチラシのマンネリ化を見直し、社員が苦労して作り直した結果、チラシ1枚の売上が倍になりました。安住せず、常に高みを目指さないとビジネスは成功しません。

佐世保へのこだわり

佐世保から離れないのは、名産であるイカをはじめ食べ物が美味しいからです(笑)。それに空気はキレイ、会社へは徒歩で通勤できる、仲間にも囲まれていて、良いことずくめです。冗談はともかく、確かに「なぜ東京、大阪へ本社を移さないのですか」とよく聞かれます。しかし私には、移す理由がありません。佐世保には自社スタジオもあり、インフラが整い、決済はインターネットでできる。これで他に移す理由があるでしょうか。
近年、マスコミなどで地域格差といった言葉が飛び交っています。地方だから格差がある、といった「格差」という言葉を発し、認めた時点でダメだと思います。厳しい仕事でも「キツい」と言ったら負けているのと同じです。今の世の中、地方も都会も関係ありません。長崎発のビジネスでも成功させることができます。また例え格差があったとしても、それを言い訳にしていては成長を望むことなど到底できないでしょう。

◆常に改善を繰り返す

私はジャパネットを、存在感のある企業にしたいと考えています。お客様から見たときに「ジャパネットがないと困る、寂しい」と言っていただける、必要とされる企業を目指したいのです。売上高を2000億円、3000億円にしたいという成長第一主義ではなく、100年、200年と継続する企業が理想です。そのためには、すべてにおいて常に課題を見つけ、改善を繰り返していくことが必要です。

私は自分の中では完成形はないと思っています。「これでいい」というものは世の中に存在しません。現状に満足した時点で成長は止まります。世の中には、60歳でも80歳でも何かに向かって走り続けている人がいます。小さなことでも、自分に課題を与えて乗り越えることが大事です。100歳で英会話を勉強する人に「120歳まで生きられるのか」と投げかけるのは愚問です。要は、生き方であり、そういう精神力、戦う姿勢こそを問うべきです。

私は課題をトップダウンで指示することもありますが、社内に改善アイデアを吸い上げるアイデアマラソンシステムを導入しており、社員一人ひとりの仕事に対する気付きの力を養おうとしています。社員からのアイデアはこの2年半で70万件を超えています。どんな企業にも、課題はエンドレスに次から次へと生まれくるはずです。それを越えて、越えて、越え続けなければなりません。

◆安心がキーワード

8年前に自社スタジオをつくり、機材もスタッフもすべて自前で番組制作をしています。スタジオだけでなく、商品の仕入れ、配送、コールセンター、テクニカルサポートセンターまで自社で一貫した体制を整えています。

極端なことを言えば、通信販売だけなら、私がテレビで話すだけで、配送は別会社、問い合わせはメーカーさんにお願いすれば完結させることができます。しかしそれでお客様に高い満足度を与えることができるでしょうか。私が一貫体制、自前主義にこだわるのは、それがお客様への責任だと思うからです。また、お客様に安心してジャパネットの商品を買っていただくために必要なことだと思うからです。通信販売は商品を手に取るわけではなく、販売員と直接ふれあうわけでもありません。だからこそ「安心感」を重視しています。金利手数料をジャパネットが負担、パソコン設置サービス、テレビの下取りなどにおいても、かかっているコスト、人的パワーは少なくありません。コールセンターやテクニカルセンターのスタッフの教育、業務改善も容易ではありません。すべてはお客様に満足していただき、安心して買っていただくためのものであり、私はそれがジャパネットのブランディング上、とても大切なことだと思っています。

◆危機にどう立ち向かうか

100年に一度の経済危機と言われています。こうした時期は特に、高い目標を掲げてもそれを達成するのは容易ではありません。では、どうすれば良いか。私の答えは変わりません。

「すべてを受け入れて最善を尽くす」ということです。どれだけ悩んでも、マクロの世界や状況は変えられない。それなら今、自分ができることから始めるべきでしょう。そうでないと何も変わりません。昔、実家のカメラ屋で一つの支店を任されたとき、1ヶ月の売上50万円を300万円にしようと思いました。しかし、簡単に達成できる数字ではありません。それでも私は、フィルムを集めるために、あらゆるところへ営業にいきました。集配や現像のスピードで差別化を図りました。それで数字が足りなければ離島へ渡って、泊まり込みでカメラを販売し10万、20万と数字を上げました。結果、1年後には月商300万円をクリアしていました。やろうと思って精進し続ければ、困難な状況でも必ず目標を達成できるはずです。

今、10の悩みがあったら、すべて解消しようとするのではなく、優先順位の高い1つか2つに集中して、徹底的に努力し続けたらどうでしょう。そこが解決できたら全体の8割の悩みは消えていると私は思います。今、置かれている状況をまず受け入れて、最善の努力をしようと思えば、人間色々知恵が出るものです。私は、そういうスタンスでやってきたし、それはこれからも変わることはありません。

◆若さの秘訣

昨年の11月で60歳になりました。ありがたいことに、「若いですね」「元気ですね」と言っていただくことが多いのですが、特別な秘訣はありません(笑)。強いて言うと、クヨクヨしないことでしょうか。過去に、悩んで眠れない、といったことはほとんどありません。嫌なことがあってもすべて受け入れて、そこからどうすべきか考えるようにしてきました。食事については昼と夜の一日二食。常に腹八分目を意識しています。朝は必ずローヤルゼリーを飲み続けていてすこぶる快調です。
またスポーツはしていませんが、とにかく仕事で声を出していますから、それが良い運動になっているのかな、と思っています。もうひとつ挙げるなら、ジャパネットの平均年齢は29歳くらいなので、若い人たちの間で仕事をしているということでしょう。彼らのエネルギーを貰っているおかげで、若々しい気持ちでいられるのだと思います。

★で、オレが思うに、ジャパネットは「客層戦略」×「地域戦略」がスゴイと思う。通販だから地域は関係ない?いや、買っているのは・・・OOのOOに違いない。なぜならば、オレも買ったことないし、先日の私のセミナー参加者に聞いても、誰も買ったことはなかった。そういうことだ!

さて、ジャパネットのメイン顧客は誰でしょう?